11th Day 「人情の道後・松山」

9月24日

5:00起床。

今日も朝から曇り空。昨晩は雨は降ったのだろうか。道がぬれている感じがする。バス停は屋根に覆われているので、テントは濡れることはなかったけど、空気が冷たい。この旅を出発したときはまだめちゃめちゃ暑かったから、9月いっぱいは暑いかな〜と思ってTシャツとハーフパンツしか持ってきてなかった。寝袋だけでは朝方ちょっと寒さを感じる。標高が高いということもあるのだろうが、秋口は季節の変わり目、ちょっと油断したか。動いてないと体が冷える。急いでテントをたたんで、6:00出発。

昨日は判断ミスで遠回りルートを選んでしまった。まずは国道33号へ戻るため昨日通った落合交差点へ向かう。朝の山間を川沿いに走る。普段はこんな早起きすることなんてないから、朝に対して新鮮な感じがする。特にここは山の中、車や人もほとんどいない。自然の音だけが聞こえてくる静かな空間。なんかこの空間にいるだけで癒されてる感じがする。やっぱ住むところは自然に囲まれてる方がいいなぁと改めて思う。

R33に乗った辺りから今日も雨が。と思っていたら一気に本降りに。初日の切幡寺で遭遇したような豪雨。落合からはゆっくりとした上りが続き、この先標高720mの三坂峠につながる。雨の中、坂を少しずつ進んでいく。登校中の小学生とすれ違いながら、東屋のある休憩所にてコンビニで買ったパンで朝食。雨はやむどころかどんどん強くなっていく。坂を上り始めて1時間ほどたっただろうか。ようやく三坂峠に到達。いつの間にか降ってた大粒の雨が霧のような雨に変わっていた。

四十六番浄瑠璃寺へはここから一気に600m近くの標高を下る。下りの途中には標高100mごとに表示がされていて、浄瑠璃寺へは標高300m→200mの間のカーブにある道へ抜けなければいけない。麓に下りていけばどうかは分からないが、峠一帯には昨日と同様、というかそれ以上に道路が白い霧に覆われている。ほんとに先が見えないぐらい。標高が高いと平野部では見られないような気象に見舞われる。調子に乗ってスピード出してるとこの抜け道を見逃してしまいかねない。下りは標高表示とブレーキに気を使わねば。

さぁ、いざ下りだすと山中ではあるけど国道だけにしっかり舗装されているので、重力加速度だけでスピードが大変なことになってしまう。何もせんかったら自転車で法定速度オーバーするんじゃないかと。しかもこの旅通して思うけど、激下りの坂の時は常に路面が濡れてたり湿ってたりしてる気がする。全力でブレーキ握ってるけど、ブレーキ利いてるのか利いてないのかよくわからん。カーブになったら滑ってそのまま崖に突っ込んでしまいそうや。遊園地でも絶叫系は好きでバンジージャンプなんかもやったことあるけど、そんなんとはまた別の恐怖や…。

白靄の中をガンガン下る。700…600…500…400…標高が見る見る減っていく。あれだけ頑張って稼いできた標高がなくなっていくと、少しもったいない気がしてしまう。なんだかんだで20分ほど下り続けただろうか、目安となる標高300mポイントを通過。ここからは四十六番への抜け道探しに神経を使う。ここだよっていう看板は出てるらしいので大丈夫とはいうが、見落として行き過ぎたらまた下った坂を上らねばならないしなぁ。そんなことを考えつつ大きなカーブにさしかかると、何か怪しげな看板が。止まりきれず10mほど行きすぎ、引き返すと錆びた看板に「浄瑠璃寺・八坂寺入口」の文字発見。若干文字の部分も錆びてて一見分かりにくい。スピード出しまくってたら見落としそうな看板だ。ともあれ無事国道33号からの脱出に成功し、国道とは打って変わっての細い山道に侵入するも、まだまだ標高は200m以上の地点。ダウンヒルは終わらない。ワイルドな下りをゆっくりと下る。何回か崖から落ちそうになったり、木にぶつかったりしながら何とか麓に。大きなため池を越えると住宅街に出る。ここまで来ると四十六番への標識があり、それに従って進むと札所はすぐそこ。9:01四十六番札所浄瑠璃寺到着。

いつの間にか雨は上がっていた。境内は緑が多く町中っぽくない。ここで自転車遍路の方と出会う。昨日突合の交差点で見かけた人かな。歳は僕と同じくらい。峠越えはきつかったですとか雨は大変ですねぇとかいう話をして先へ行ってしまった。僕よりペースは速そうなので、もう出会うことはないかもしれないが無事の結願を祈る。納経していただいたお寺の女性の方とも少しお話をした。自転車遍路だと伝えると、ねぎらいの言葉をかけていただいた。「雨もこれで上がってくれるといいねぇ」と、些細なことだが旅をしている者にとっては、人の小さな親切心が何よりの癒しとなる。感謝の気持ちを胸に、札所を後にする。

次の八坂寺までは1km足らずの至近距離。自転車なら5分かからない。9:18四十七番札所八坂寺到着。こじんまりとした山門をくぐると、境内は全体的に新しい雰囲気。納経を済ませて次へ向かう。207号線を北上。まっすぐ行けば四十九番にたどり着く。途中交差点にあるコンビニでパンとドリンクを購入。これが失敗。入り口が交差してる23号線のほうに向いてたので、自分では店を出てまっすぐ207号を進んでるつもりなのに、実は27号に乗ってしまう。まったく無意識のうちに右折してしまった。結局その事実に気づくのに30分ほどロス。

207号に復帰して再北上。久谷大橋を超えると、のどかな田園風景が広がる。橋といえば歩き遍路の間では道中、橋の上では金剛杖をついてはいけないというルールがある。何でも弘法大師が旅の途中、宿での宿泊を断られやむなく橋の下で野宿したという言い伝えがあるため、今でも橋の下のお大師様を起こさないようにということらしい。歩きで杖を持っていくときには気をつけよう。小橋を渡り、10:19四十八番札所西林寺到着。お寺の周りはきれいな小川が流れており、近くの杖の淵公園の湧水は名水百選に選ばれている清流だ。きれいな水に囲まれた札所は立派な仁王門がたたずむ。自然と溶け合う素敵な雰囲気の札所だ。

納経を済ませ、続くは四十九番浄土寺。ここから約3km。松山に入ってからは札所が密集しており、四十八→四十九→五十→五十一と8kmほどの道のりでしかない。目標が近くにあると精神的に余裕が出来る。今日は雨も上がったようだし、ゆっくりと巡ることにしようかな。交差点で信号待ちをしていると、ご夫婦のお遍路に出会う。愛知から来て、各種交通機関と徒歩で回っているとのこと。ここからは道が入り組んでいて分かりにくい。地図を見せていただいて道を確認させてもらった。感謝して、また後ほどお会いできればと、先に行かせていただく。

確かに入り組んだ道ではあったが、浄土寺はなんとか発見することができ、11:00四十九番札所浄土寺到着。ここから五十番幡多寺へはわずか2km。ただこっからの道がいよいよ複雑。途中までは遍路道を通って墓地を抜けて近くまでは来たはずなのだが、何故か団地のようなところへ出てしまった。結局迷い迷いで11:30五十番札所幡多寺到着。30分ほどかかってしまった。このお寺は丘の中腹にあり、周りを森に囲まれている。少し街から離れて落ち着いた感じだ。

五十一番石手寺に向かう途中に自転車屋さん発見。実は8日目に自転車倒してチェーン外れてから、上り坂をこいでるとギシギシという嫌な音がずっとしとって気になっていたので見てもらうことに。お店のおじさんいわく、ベアリングが中国製の安物だということで、根本的にもうしょうがないと。う〜ん、安物ということは自覚していたが、客観的に言われるとちょっとヘコむなぁ…。まぁ、まだ走ることは出来るから大丈夫か。こいつがつぶれたら僕の旅も終了や。やっぱりこの旅こいつと心中やな。でも旅終わるまでは頑張ってくれ〜。

石手寺境内に住んでる子猫。じっとしてるといっぱい寄ってくる。
石手寺に近づくにつれ、人も車も多くなり、一気に街中へ。道後温泉街も近く、松山有数の観光名所となっているようだ。人が多すぎて危ないので自転車は押して行き、12:05五十一番札所石手寺到着。この札所、松山市街地のど真ん中だというのにとにかくデカイ。めちゃめちゃ広い。観光客や参拝者でごったがえし。人いっぱい。猫いっぱい。露店もいっぱい出てる。お祭りやってるみたいや。石畳を進み、仁王門の写真を撮っていると、子猫がトコトコと近寄ってきた。全然人間を怖がってない様子。多分観光客が餌付けとかしてるから、人間に親しみを持ってるんだろう。そういえば高知の最御崎寺でも猫がいっぱいいた。お寺に来るような人なら何かくれるやろうと、猫も結構考えて住むところ選んでるんやろうな。

ここから道後温泉の本館はすぐ。自転車で5分程度。この道後温泉はなんと3000年の歴史を誇る日本最古の温泉なんだとか。本館自体は築100年を超えるという。道後に来たからにはやっぱり是非入っておきたいところだ。まだお昼すぎやし、今日は時間的にも余裕がある。ここ2日間お風呂から遠ざかっているし、ちょうどいい。一風呂あがることにしよう。近くのコインランドリーにたまってた洗濯物を放り込んで、道後温泉本館へ。外観はやはり歴史を感じさせるたたずまい。街中にある分、その存在感は際立っている。入浴料金は300円。意外とリーズナブルなお値段。脱衣所は広く、浴場は2つもあった。向かって右の浴場へ入る。3日ぶりの風呂。あ〜生き返る。さすが3000年の歴史。心身ともにかなり癒される。あまりの気持ちよさに、結局制限時間いっぱいの1時間ぐらい長風呂してしまった。

風呂をあがってパンツ1枚で脱衣所の扇風機に当たる。半ばおっさんの風貌ではあるが、これがたまらなく快感。熱を冷まして着替えていると、横で地元のおじいさんたちがお話されていた。「世の中物騒やけど人生何か特別なことはいらんから、何もなく普通におれるんが一番やわ」「ほうじゃほうじゃ。嫁はんと仲良うして、ご飯食べれて、道後温泉入ってほれで十分。」う〜ん、まったくおっしゃるとおり。僕自身も、事なかれ主義じゃないけど平凡人生願望が強いのだが、この方たちは色んなことを乗り越えてきた上でおっしゃっている言葉なのだろう。僕なんかとは言葉の重みが違う。歳いった時こんなことを言っていられる人生にしたいものだ。

道後温泉。日本最古3000年の歴史を誇る。
白衣を身にまとい脱衣所を後にしようとしたら、僕がお遍路だと気付いてくれたようでおじいさん方に声をかけていただいた。中には合掌して拝んでくれる方も。僕みたいな新人遍路に拝んでもあまりご利益はないかと思いますよ…。それでも皆さん、とても親切に話しかけてくれる。お遍路に対するお接待の心はご年配の方々を中心にまだまだ残っていることを実感。タクシー運転手をしていたという方に道を教えていただいて出発しようとしたら、昔歩いて遍路を回ったという方から「これでええもんでも食べなさい」と千円を差し出された。貴重なお話をしていただいたのはこっちなのに、と遠慮したが、「わしも昔いろいろお接待してもろうたから、そのお返しやと思って受け取りなさい」と。周りの方も「君がこの歳になったらまたその時のお遍路さんにお接待してあげたらええんや」と。今までいろんな方にいろんなお接待をしてもらってきて、もちろんその方達に対する感謝の気持ちはずっと持ち続けているけど、お接待を受けた者はこの文化を受け継ぐ使命があるんだと諭された。この文化がこの先ずっと四国に残ればいいなぁなんて他人事みたいに思ってたけど、受け継いでいくのは他でもなく自分なんやって。旅も半ばを過ぎたけど、自分の旅の意義に一つ気がつけた。道後温泉のおじいさんたちとの出会いは本当に貴重な出会いだった。

コインランドリーで洗濯物を回収し、一気に五十二番へ。187号線を西へ。愛媛大学や松山大学と大学が並ぶ街中を走って行く。183号へ乗り換え15分程度、一の門をくぐり抜け、15:23五十二番札所太山寺到着。山門をくぐっても本堂までは長く急勾配の坂が続く。曇っているとはいえ、まだ午後3時半。周りは十分明るいはずなのだが、境内は木々に覆われていて薄暗い。坂を進むにつれて、深い森に入っていくような感じだ。そして境内はすごく静か。山中というわけではないのに、山門の中と外では違う世界に入ったかのような静けさ。街中の日常とは一線を画する札所特有の神秘的な空間だ。

参拝を終え門を出ると、愛知のご夫婦に再会。僕が道後温泉に入ってる間に先に進んでいたようだが、次の円明寺への道が分からず引き返してきたとのこと。僕の地図では太山寺一の門を抜けまっすぐのはずなのだが。今度は僕の地図をお見せして、道を確認。先を進む。

案の定、まっすぐ進むこと10分、16:01五十三番札所円明寺到着。街のお寺らしく落ちついた感じの札所だ。納経を済ませたら4時半近い。次の札所はもう無理かな。さて今日はどうしたものかと思っていると、自転車遍路の男性と出会った。仕事の都合で区切りで打っているとのこと。今日は近くのご友人宅で泊めてもらうのだという。先ほどのご夫婦も到着し、ここでお別れ。

今日の宿泊で考えていたのが、この先にある鹿島のキャンプ場。渡舟で渡る島でその名の通り野生の鹿が繁殖しているらしい。鹿との戯れは捨てがたいところだが、このところの天候を考えると、夜に雨が降る可能性が高く、せっかく道後温泉でサッパリしたところなので、できればそれは回避したいところ。幸い鹿島近くにユースホステルがあるというので、伺ってみることにする。

日が暮れかかった頃、北条水軍YH到着。訪ねてみるとホストさんが対応してくれたのだが、この方がめちゃいいお人柄の持ち主。事情を話すと快く迎えていただいた。お風呂もわざわざ沸かしてくれて、貧乏旅をしているというと近くのスーパーが半額になる時間まで教えてくれて、本当に感謝。ここはYHといっても民家を改装して運営しているYHで、大きなものではないけどかなり快適に体を休めることができた。

YH屋根裏部屋のベッドでゆったりしながら、今日1日を振り返る。で、今日の感想、―愛媛の人は皆いい人!―。徳島、高知に嫌な人がいたって言うわけじゃないけど、今日出会った人は皆人情味があるというか、こっちから自然に感謝の気持ちが溢れてくる方ばかりだった。旅をしていてホンマに思うのは、厳しい旅を続ける上で何が一番癒してくれるかって言うたら、おいしいご飯にポカポカお風呂、あったかい布団もいいんやけど、やっぱり人の温かさに触れること。お遍路に限らず何にでも言えることかもしれんけどね。頑張ろうっていう気持ちさえ出てくれば、足が痛いとか体が重いとか関係ないもの。疲れはたまってるけど今日はいい気持ちで床に就くことができる。出会った人皆に感謝感謝。

お…、今日の出費何気に多かったな…。明日からは貧乏旅で行こう…。

21:30就寝。



  納経    2400円(300円×8ヶ所)

  宿泊    3150円
  入浴    300円
  洗濯    300円
  移動    なし
  食事朝  200円(パン)
      昼  100円(パン)
      晩  500円(いなりずし・チキンカツ)
  その他  なし


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