12th Day 「自然の驚異」

9月25日

5:15起床。

ホストさんはまだ就寝中のようだ。物音を立てないように準備を進める。昨夜に朝は早めに出発したいと言ったら、いつでも好きな時間に出発してもらっていいよと言ってもらっていたので、一晩の感謝を胸にして6:00出発。

海沿い196号をひたすら走る。瀬戸内の潮風を受けるも体調は非常に快適。昨日はベッドで寝れたし、しかも道後温泉とYHとで1日2回風呂に入るというありえない贅沢をしてしまったし。何と幸せなことか。今日はちょっと頑張って距離をかせいでみるか。六十番まで行きたいなぁ。

1時間ほど走ったところにコンビニ発見。朝食のパンを購入して店を出ると、またまた自転車遍路の男性に遭遇。この数日で自転車遍路の方といっぱい出会ってる。今や自転車遍路もかなり主流になっているのかな。この男性は何度か遍路を打ったことがあるそうで、今乗っている自転車も香川のお接待でいただいたのだとか。お接待で自転車まであげてしまうという、香川のお接待文化。香川の人たちはそんなに気前がいいのだろうか。昨晩はこの近くに善根宿があり、そこで寝かせてもらったという。今日は臼井の水という野宿ポイントで寝る予定だとか。東屋もあり水も湧いているという非常に快適なポイントだそうだ。もしよかったら夜に会いましょうと言っていただいた。場所的に六十番横峰寺に向かう途中にあるため、自分としてはもう少し先に進んでおきたいが、道に迷ったりタイムロスは十分考えられる。何かあったらご一緒させてもらうかもしれませんので、と伝えて先に出発。

さらに1時間ほどR196を東に走り、8:04五十四番札所延命寺到着。(ちなみに、延命寺は「えんめいじ」で、五十三番円明寺は「えんみょうじ」)。国道から少し離れた山裾にある延命寺は、境内に花や木が整えられていて落ち着いた感じのお寺。まったりした気分で納経を済ます。

続く五十五番へは30分程度。8:39五十五番札所南光坊到着。何故か○○寺というスタイルにとらわれていないこの札所は、かなり広い。境内には無数の風車が回っている(よく見るとペットボトルを素材にしたものだ。近所の小学生が作ってお供えしているのだろうか)。広い境内は、街中のお寺だけあって近所の方々の憩いの場として利用されているようだ。離れの納経所の方と軽くお話して、納経をしていただく。

泰山寺の外観。一見お城かと思ってしまった。
来た道を引き返して五十六番へ向かう。R196を横断して、9:16五十六番札所泰山寺到着。この札所は周りを石垣に囲まれており、お城のような風貌だ。石段を上がった境内は周りより一段高い高台になっている。境内は今ちょうど建て替え中のようで、真新しい建物と古さを感じさせる建物が共存している。参拝中に近所の方だろうか、男性2人組に話しかけられた。「若いのに全部回ってるん?お寺の子か何かで?」。いえいえ、単なる大学生ですよと。やっぱりお遍路と言えば年配の方が多いのが事実やから、若くしてこんなことやってたらそんなふうに思われるのかな。確かに今まで自分より若い人にはほとんど出会ってないからなぁ。

ここから五十七番へは細い路地を抜けていくが、やっぱり道がわからなくなる。近くのおばさんに教えてもらって、蒼社川を越えていく。この辺りから坂道にさしかかる。五十七番は山の中腹にあるお寺。短いが急な上り坂。自転車を押して上っていく。9:57五十七番札所栄福寺到着。境内は小ぢんまりとしているが、歴史を感じさせる本堂が佇む。納経所で納経をしていただくと、お寺の方に「歩きの方ですか?」と聞かれ「自転車です」と答えたら何やら奥から包みを持ってきた。「団体さんが、お弁当が余ったので歩きの方にあげて下さいとお接待でいただいたんです。よろしかったらどうぞ」と。これは感謝。歩きではなく自転車だったのだが、ありがたくいただくことに。

五十八番はさらに山を登っていく。勾配がきつく、結構大変。10:37五十八番札所仙遊寺到着。しかし、じつはこれまだ山門にたどり着いただけ。境内は標高300mの山の頂上にある。自転車を山門の脇に置かせてもらって、徒歩の遍路道へ。細い山道の急な石段を上っていく。きついのはきついけど自転車押していくよりは楽かな。10分くらいかけて頂上到着。お寺の子だろうか、3人の子供が境内をかけまわっていた。子供たちの声が響き渡るぐらい境内は静かだ。納経を済ませると、お寺の方に柚子茶をご馳走になった。温かく柚子の香りが漂う。これで疲れが取れそうだ。お寺の休憩所で栄福寺で頂いたお弁当をおいしく食べる。

続くは五十九番国分寺。いったん麓の栄福寺まで下りてR196に乗る。1時間ほどR196を走り続けて12:07五十九番札所国分寺到着。お昼時だが境内は団体の参拝者で人がいっぱい。やっぱり団体参拝の般若心経は勢いがある。圧倒されながらも自分も般若心経をマイペースで唱える。参拝用のお線香が無くなってしまったので納経所で購入。

お寺を出て次の六十番横峰寺への道を地図で確認していると、托鉢をする男性に声をかけられた。今日は六十番まで回りたいと言うと、それは無理だろうと。車道終点のところに東屋があるからそこで寝たほうがいいということを教えてもらった。まだお昼過ぎなのだが時間的にはかなり微妙であることは事実。特にこの横峰寺は石鎚山の中腹、標高750mの山寺。険しい山道を登らねばならない。山の天候もこの後どうなるか分からないし、余裕がなければ無理はしない方がいいだろう。とりあえず横峰寺麓を目標にすることに。

再度、R196を南東へひた走る。そういえば朝に出会ったおじさんが言ってた臼井の水はどこだったかなと調べてみると、とっくの前に通り過ぎてしまっていた。あらら…。時間的にもう少し先へ行ける。せっかく誘っていただいて申し訳ないが、先を進ませていただくことに。

途中で曲がれば多少近道できたのかもしれないが、曲がるタイミングをつかめず、結局R196の終点まで来てしまった。実はここまできたら六十一番や六十二番は目前でこっちを先に回る方が近いのだが、ここまできたら順打ちにこだわってみたい、ということで六十番へ向かう。R11に乗り横峰寺へ通じる147号線を探す。途中コンビニで今日の夕食を購入しておく。これから山に入るわけだし、おそらく店は無いだろうから。

注意していたが147号線への入り口が見つからない。どうやら行き過ぎたようで引き返すと、自転車遍路のおじさんに出会う。この方も道がわからなくなってしまったとのこと。今日は六十番は諦めて先に六十一番を回りたいと。六十一番なら逆方向ですね、とお教えして途中までお供する。お話しするにこのかた徳島から来られていると。しかも徳島市内。意外と少ない四国出身遍路と出会えてちょっと嬉しい。引き返す途中に147号線発見。おじさんとはお別れし、いよいよ石鎚山へ入っていく。

147号に進入したらすぐ上りが始まる。最初のうちは緩やかで問題なく進むが、徐々に上りがきつくなる。遍路道入口まで続く車道の終点までは約7km。結構な距離だ。右に左にカーブを曲がりながら上っていく。途中からはずっと自転車を押して上る。遍路道にたどり着くまでに大分体力を消耗してしまいそうだ。しかも坂を上りだしてから、徐々に曇り空に変わっている。いつ雨が降ってもおかしくないような薄暗い天候だ。現在、坂の中腹を過ぎた辺りだろうか、時刻は午後2:30。車道終点に着くのは3時過ぎか。そこから山中の遍路道を歩いて上り始めて横峰寺まで片道約1時間。時間的には間に合うが、天候が怪しいし、万が一遭難でもしたらこの後の時間帯、朝まで誰も通らないだろう。体力的にも微妙な残力だ。ここは無難に国分寺で教えてもらった東屋で野宿して、朝一でアタックした方が安全。登山の素人が無駄に危険を冒す必要は無い。ということで今日の目標は車道終点の東屋でファイナルアンサー。

坂を上るにつれ、微妙に小雨がぱらついてる様なぱらついてない様な天気になってきた。そしてようやく147号線の終点にたどり着く。現在午後3時過ぎ。予想通りの時間で、テントを1コ張れるだけの東屋も発見。OK、本日の目標達成〜。と、ここで軽トラで水を汲みに来ている近所の方と出会う。ここは石鎚山の山頂付近からの湧水があり、山沿いに住んでいる人たちが生活用水として水を汲んでいるようだ。トラックの荷台いっぱいに水を汲んだポリタンクやペットボトルを乗せている。それだけ名水なのだろう。この湧水があれば一晩しのぐことはできそうだな。僕も水を飲ませてもらおうとすると、軽トラで来ている皆さんに声を掛けられる。

「これから横峰寺行くんで?」
「いや、今日はもうここでテントを張ろうかと…。」
「まだ時間あるんやから行ったらええやん。」
「いや、往復の時間を考えると微妙なので…。」
「間に合う、間に合う。今も若い人が行ったばっかりや。」
「いや、天気も微妙なので…。」
「ほんなんピュッと行ってピュッと帰ってきたらええんや。若いんやからいけるいける。」
「…。」

横峰寺への山道。マイナスイオンが心地良い。
…予定変更。ここまで言われて行かないわけにもいかない。アタックだ。自転車を東屋に置いて徒歩遍路道へ。この遍路道、すごい山道。道のすぐ脇には湧水が流れてきており、なんかもうマイナスイオン全開。天気が悪く薄暗いが、それがまたこの景色を情緒深くさせている。完全に山の中に入り込んだ感じだ。険しい道だが、参拝用具しか持ってきていないので足は軽い。意外とペースはいい感じだ。しばらく進むと、前方に歩き遍路の男性が。さっき水汲みのおばさんが言ってた歩きの方だろう。途中で休憩しているところで追いつく。お話しすると東京から来て野宿主体で通しで打っていると。しかも年齢は15歳。自分より年下の人と出会うこと自体がレアなのに、ここまで若い人と出会うとは思ってもなかった。何か彼を見ると自分なんかよりずいぶんしっかりしてるなぁと感心してしまう。自分が15の時なんて何にも考えずに周りに流されるだけの生活だったからなぁ。なんて22歳にして考えてしまった。

彼はもう少しここで休んでいくということで、先に進ませてもらった。進むにつれて山深さが一気に増していく。周りは大きな杉の老樹が生い茂っており、日の光も遮られてさらに薄暗い。いつの間にか水の流れる音が遠くに聞こえるだけで、本当に静かな空間だ。ほんとに自然の中にいると自分がどんなに小さな存在かっていうのが思い知らされる。

山道に横たわる倒木。自然の力は驚異だ。
そんな道を進むと巨大な倒木に遭遇。遍路道を覆わんばかりの老杉だ。文字通り根っこから根こそぎえぐれて倒れている。根に付いている土はまだ新しい。倒れて間もないようだ。恐らく今夏に四国を襲った台風と集中豪雨で倒れたのだろう。すぐ右の崖下にも2本ほど同様の杉が根っこから倒れてしまっている。こんな立派な杉林を生み出すのも自然の力なら、それをなぎ倒すのも自然の力。自然の恵みと驚異とを目の当たりにする。ずっと住むなら自然に囲まれた所がいいなんて言ってきたけど、こういう自然の力の大きさを見せつけられると、自然の中で生きるってことはそんだけ危険であるっていうことも忘れたらあかんなって思う。都会で住む気にならないってのは変わらないけど、自然の中で暮らすことのいいところだけでなく、厳しい現実にも目を向けていかなあかんなぁと反省した。

横峰寺境内。薄っすらと靄が立ち込める。
結局1時間弱かけて遍路道を登りきる。薄い霧が立ち込める中、15:57第六十番札所横峰寺到着。山門をくぐり、境内へ。さすが標高750mの山寺、何の音も聞こえない。静かすぎて耳が変になりそうな感じさえする。杉林に囲まれた境内は少し霧がかかっていて、なんか現実世界じゃないみたい。やっぱり上ってきてよかったと感動。大師堂の参拝を終えるとさっきの少年も境内に来ていた。今日の宿はどうするのかと聞くと、まだ決めてないとのこと。天候も危ういし、9月も末で暮れが早い。無事に床に就ければいいのだが…。

再会を期して少年と別れ、下山。下りは滑らないようにゆっくりと下る。というよりこの空間に少しでも長くいたいという感情のせいかもしれないが。下る途中(登山道入口から600m地点)で上ってくる僕と同い年くらいの青年に出会う。納経終了の5時まであと10分もないのだが…。「まだだいぶ先ですか?」「まだだいぶ先ですねぇ…」とのやり取りをしてすれ違う。札所まで残り約1.6km。大丈夫かな…。

無事下山。休憩所の東屋にテントを張って、まったり。あまり大きい東屋ではないので僕の無駄にデカイ3人用のテントを1つ張るだけでいっぱいだ。と、そこへ山から下りてきた歩き遍路のおじさんが現れた。この方もここで野宿したいということで、テントをずらしてなんとかテントを2つ並べる。よく見るとおじさんのテントの端が外にはみ出してしまってたり…。本当に無駄にデカいテントでスイマセン…。

テントを張った後、このおじさんとも色々と話をしたのだが、おじさんも先ほど時間ギリギリに登って行った青年とすれ違ったようで、心配だと言っていた。おじさんいわく、横峰寺には宿坊が無く、境内での野宿も認めていないのだとか。というのも標高が高いが故に冬場は札所の辺りも氷点下にまで下がって凍死の危険性もあるため、最初から麓の宿で宿泊させるためだそうだ。おじさんもこの青年には、この時期は夜納経が間に合わなかったら無理言ってでもお寺に泊めてもらいなさいと伝えたと言っていた。麓でも朝方は冷えてきたし、今日は天候も悪いし、お寺の方も事情を汲み取ってくれるだろう。

このテントを張った場所、携帯の電波が極めて微妙。圏外と0本の間をさまようような状況で必死に電波を探して、実家に電話。明日には香川の親戚のおじさん宅にたどり着けるかもと伝える。間に合うか微妙なところだが、明日の目標は観音寺市。いよいよ最後の道場・香川に突入だ。

19:15就寝。



  納経    2100円(300円×7ヶ所)

  宿泊    0円
  入浴    なし
  洗濯    なし
  移動    なし
  食事朝  200円(パン)
      昼  0円(お弁当(お接待))
      晩  400円(いなり寿司・パン)
  その他  100円(ライター)、50円(線香)


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