16th Day 「結願の地へ」

9月29日

4:45起床。

予定より早く目が覚めた。激しい雨音。一晩たっても、雨は弱まる気配も無く降り続けている。台風の影が嫌でもちらつく。今日のタイムリミットは昼12時。台風が上陸するまでに回り終えなければ。

幸い屋根がある場所でテントを張れたので濡れることはなく、お世話になったテントをたたむ。思えば旅に出るときは野宿するのにも少々不安だったけど、この旅通して6回の野宿をこなせたのはこのテントのおかげだ。雨風を防げたし、何より虫に邪魔されずに眠れたのが大きい。一人で使うにはちょっとデカイのが問題だったけど。とにかく感謝感謝。荷物もまとめ終わり、いざ最後の大窪寺へ向けて、5:30出発。

まずは昨日お世話になったコンビニへ。宅配便もやってるというので、もう使わなくなった物を家に送り返そうと思って立ち寄ってみる。が、やっぱり開店前やった…。お店が開くまで待っている余裕は今日は無い。ちなみにこの辺りにはコンビニ的なお店はこの1軒だけ。しょうがない、これも運命。もう全部背負ってゴールしちゃる。

県道3号を南へ。前山ダムを左手に見ながら緩い上りを進む。昨日野宿したのはこのダムのすぐ下流。台風が迫って豪雨の中、ダムの下で野宿。冷静に考えると、相当無謀なことをしたなぁと。一歩間違えればシャレにならん事態になっていたかも…。決してマネをしないように。

ダム沿いに大きく左に曲がったところに道の駅ながおがある。この辺りではここも貴重な野宿ポイント。まだ薄暗く、雨が激しいためよくは見えなかったが、一人野宿をしている姿を見つけた。まだ寝ているっぽい。そういえば昨日のコンビニのおっちゃんが言っていたが、僕が来るちょっと前に歩きのお遍路さんが訪ねてきたそうで、その人は道の駅で野宿するかもと話してたそうだ。おそらくこの方だろう。歩きでは大窪寺に着くのはお昼頃になるだろうか。そこから山を降りるとなると台風の直撃を食らう恐れもある。今日一日はここで待機して明日結願を目指すのかもしれない。

そういえばあの自転車2人組はどうしたのだろう。道路の向かい側から見ただけでは姿を確認できなかった。もう出発してしまったのか、また別の場所で野宿しているのか。まさか昨日のうちに大窪寺まで行ったとは考えづらいが…。あの二人も八十八番を終えたら徳島に帰るだろうから、台風の影響が心配だ。無事に帰られることを祈る。

とは言ってみるが、まずは自分の身を案じなければ。緩やかとはいえ上り坂がずっと続いている。しかもこの雨。ペダルが重い。気温はそんなに高くない、むしろ若干肌寒いはずなのに雨ガッパの中が汗で蒸れる。水分補給はこまめに取る。

ちなみに道の駅の前にはお遍路交流サロンなるものがある。ここでは朝市が行われてお遍路向けのお接待もしてくれるとか。中には遍路資料室もあって、時間があれば是非訪れてみたい。さすがにこの時間とこの天候ではまだ人気も感じられない…。残念。

上り坂は続く。半分くらいは押して登ったか。一つ峠を越えてしばらく下り。少し雨が弱まっている気がする。自販機でアクエリを購入。ちょっと一息。多和小学校を右手に見ながら左へカーブ。さあ、いよいよここから最後2kmの上りへ。全長1400kmに及ぶ遍路道も、残るは2km。この辺りからまた雨が激しくなってくる。この雨から逃れるために早く着きたいという気持ちと、たどり着いた時点で旅が終わってしまうという名残惜しさとのジレンマ。どっちかというとたどり着きたくないという気持ちのほうが強いかも。この時間がずっと続けばいいのにな〜。そんな思いと裏腹に、ここに来てペダルをこぐペースが上がっている自分に気づいた。

八十八番大窪寺境内に納められている金剛杖。数々の願いが込められている。
7:40、四国遍路最後の札所、結願の寺、八十八番札所大窪寺到着。自転車を山門脇に置き、境内へ。大きな山門は旅を締めくくる場にふさわしく壮大だ。境内は広い。参道を歩くとガラス張りの堂があり、中には無数の金剛杖が納められている。この地が結願所であり、旅が終わりであることを改めて認識させられる。1000年以上続く遍路の歴史で、数え切れないぐらいの遍路がこの地でそれぞれの思いを成し遂げたわけだ。自分も何千万分の1にすぎないけど、今、その仲間入りを果たそうとしている。

雨の八十八番大窪寺本堂。参拝にも特別の思いだ。
境内には他の参拝者はいない。激しい雨音が静かな空間に響いている。本堂へ。お寺の方が本堂の清掃をしている。今朝はまだ参拝者は来ていないようだ。ローソクと線香を購入し、賽銭と納札を納める。そして175回目の般若心経。思いがこもり、いつもより大きな声で唱えていたかもしれない。

続いて大師堂へ。風が強くローソクにうまく火がつかない。この旅176回目、最後の般若心経。霊山寺ではしどろもどろだった般若心経も少しはサマになってきただろうか。道中、苦しい時には無意識のうちに頭の中で般若心経を唱えていることもあった。最後ということで、初めて目をつぶって暗誦。間違えずに唱えきることができた(はず)。

本堂・大師堂の参拝を終えて納経所へ。納経帳の最後のページが埋まる。一応、高野山のところは空いているが、八十八カ所分の納経を終える。ちなみにここ大窪寺では結願証なるものを頂けるそうだ(→2000円)。文字通り結願を証明してもらえる価値ある証書だ。ただ、僕は迷ったあげく、頂くのはやめた。結願の証明は納経帳でいいと思ったし、客観的な証書としての効力は自分以外の他人に対しては有効ではあるけど、結局自分が結願を達成したことを自分が納得できていればそれで十分だと思ったから。

納経を終えて山門を出る。大きな山門に深く、深く一礼。頭を上げたこの瞬間、四国八十八カ所自転車遍路、完結!頭の中から湧き出てくる旅の思い出と達成感に浸る・・・・・・否。これで終わりではない。もちろん高野山にも行かなければならないし、太龍寺・雲辺寺も改めての参拝も決意している。ただ、我が国では古くからこういう状況では必ずと言っていいほど唱えられているあの格言がある―「家に帰るまでが遠足です」―。そう、今こうしている間にも台風はありえないスピードで迫っている。スタート地点である徳島の実家に五体満足でたどり着いてこそ旅を終えることができる。今は旅を終える権利を手にしたに過ぎないんだ。

大窪寺前のお店でうどんでも食べようかと思ったがあいにく準備中。しょうがない。一気に実家まで走る。R377から県道2号へ。人気もない、車も少ない道路をガンガン下る。8:44徳島県帰還。市場町の山間を走る。基本的に整備された道。だいぶ楽して距離を稼いだ。

県道12号へ乗り、東へ。今となっては懐かしく思える十番切幡寺や十二番焼山寺への案内標識を横目に徳島市街地を目指す。徐々に、というかあからさまに風が強くなっているのを肌で感じる。雨も、もう真横に降ってるんじゃないかというぐらい強く吹きつけてくる。台風は確実に近づいている。迫る台風、逃げる僕。まさかこの歳で台風相手に鬼ごっこをするとはね。名田橋を渡って吉野川の対岸へ。これが3回目の吉野川越え。3回渡って元の場所に帰ってくるとは不思議な話。

県道30号に乗る。もう実家は目前。雨も風も強まる一方。時折マジで飛ばされそうになるほどの強風。こけないようにゆっくりとペダルをこいで、12:10実家に生還。

カッパを脱いでとりあえず風呂。家にあった弁当を2つたいらげる。香川でお世話になったおじさんにお礼と無事帰宅したことの報告TEL。荷物をとりあえず片付けて、2週間ぶりとなる自分の部屋で横になる。もう走らなくていいという状況に何だか落ち着かない。まだ旅の中にいる感じだ。体は疲れているけど、思ったより何とかなった。旅中は、帰ってきた時には、もう歩けなくなるんじゃないかぐらいに覚悟してたけど。

部屋は母がやったのだろう、雨戸がすでに閉められていた。雨戸に打ちつける雨音がすごい。明日の朝には台風一過となるだろうか。しかし、今この瞬間にも遍路を打っている人がいるのだろう。本当に無事に台風をやり過ごしてくれることを祈る。

今日も朝が早かった。少し早いが眠ることにする。今の感じだと、夢の中でも自転車で走ってそうだな…。日常生活に戻るにはしばらく時間がかかりそうだ…。

16:30就寝。

旅終了。



  納経    300円(300円×1ヶ所)

  宿泊    0円
  入浴    なし
  洗濯    なし
  移動    なし
  食事朝  200円(パン)
  その他  なし


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